「変形性膝関節症を治します」というマッサージ治療院や整体院に行くべきでない理由

2021/06/15

雑記

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今回は「変形性膝関節症が治ります」と宣伝しているマッサージ治療院や整体院についてのお話です。

マッサージや整体で変形性膝関節症が治ることはない

まず断言しますが、マッサージや整体で変形性膝関節症が治ることはありません

「本当か?」と思われるかたは、かかりつけのクリニックのお医者さんや看護師さん、理学療法士さんにでも確認を取ってみてください。笑いながら「当たり前でしょう」と返されることでしょう。

それは基礎医学を学んだ人にとっては常識なのです。


ところが巷には、「変形性膝関節症を治します」というマッサージ治療院や整体院が結構あるような気がします。

これはいったいどういうことなのでしょうか。

そもそも変形性膝関節症とは?

そもそも「変形性膝関節症」というものは何なのか。それを、この病気で苦しんでいる人も理解していないケースが多いように思います。(だからこそ『変形性膝関節症を治します商法』に引っかかってしまうわけですが)

まず関節とは何ぞや

変形性膝関節症を理解する前に、まずは関節とは何かを理解しなければなりません。

関節は骨と骨のつなぎ目であり、これがあるおかげで人間は体中を自在に動かせるわけです。しかし骨は血管が豊富な組織ですし、表層の骨膜には痛みを感じる神経も豊富に存在します。なので、骨と骨が直接ゴリゴリぶつかっては関節として機能しません。


「なぜそのままで関節が作れないものが人の芯材になっているのか」と思われるかたがいらっしゃるかもしれません。ですが、人の芯材は成長期には成長しないといけませんし、折れたりヒビが入ったら回復しないといけませんので、血管が豊富でないとそのための栄養が補給できないのです。また、危険な衝撃や無理な動きを察知するためには痛みを感じる必要がありますので、知覚神経も必要です。これは仕方のないところです。


そこで、人間の体は(人間だけではありませんが)、関節を形成する骨の先に軟骨を付けるように進化をしています。これが関節軟骨と呼ばれるものです。

関節軟骨は滑らかで弾力があるうえに、血管や神経も通っていません。よって関節軟骨同士が擦れたりぶつかり合っても出血せず、痛くもなく、関節として機能することができるのです。


(※膝関節に関しては運動量や負荷が特に大きい関節ですので、関節軟骨のほかに、膝を安定させる半月板という特殊な軟骨も存在します)

関節軟骨は消耗品

ところが。

血管が通っていないということは、栄養が補給されませんので、骨のような盛んな再生能力はないということを意味します。

そして神経が通っていないということは、危険な衝撃や無理な動きを、都度「痛み」というわかりやすいサインでは出してくれないということを意味します。


そうなりますと、気づかないうちに無理な負荷がかかることもあるでしょうし、関節軟骨は加齢とともに削れ、薄くなっていく一方となってしまいます。

つまり、関節軟骨は「消耗品」だと言うことができます。

軟骨が摩耗し、骨に影響が出てくると変形性膝関節症となる

消耗品である関節軟骨。

膝の関節軟骨についても、使い方のあまり良くないかたや環境的に負荷のかかりやすいかたは、歳を重ねていくごとに痛みもないまま経年劣化でどんどん薄くなっていきます。


そしてある程度まで薄くなってしまうとクッションの機能を果たせなくなり、関節のかみ合わせに異常をきたすようになってきます。そこまで行ってようやく「こわばり」「痛み」などのサインが出てきます。


痛みは病状の進行とともに強くなっていきます。動作開始時だけだった痛みが常に痛むようになったり、膝に水がたまったりと、日常生活に支障をきたすようになります。

また、軟骨のすり減りで骨に直接衝撃が来るようになるため、骨棘と呼ばれるトゲのような突起ができるなど、骨そのものが変形をするようになっていきます。そうなるころには相当な痛みになっているでしょう。

これが変形性膝関節症です。

整体やマッサージで痛みが軽減されることはあるが、それは治していない

メカニズムがわかれば滑稽「変形性膝関節症を治します」

つまり変形性膝関節症については、膝の関節軟骨のすり減りがほぼ不可逆的な変化である以上、進行を遅らせることはできても、基本的には治すということはできないのです。


例外としては、足をX脚にして残存している外側の軟骨(たいていの変形性膝関節症は内側の軟骨が削れます)を使用するようにするHTO手術などは「治している」と言えるのかもしれません。

再生医療の自家培養軟骨移植術についても軟骨を復原しますので「治している」と言えそうな気がしますが、令和三年現在、変形性膝関節症のかたにつきましては残念ながら適応ではありません。

人工関節置換術は……これはそもそも治しているとは言えないですね。人工物に置き換えるということですので。


いずれにせよ、膝の関節軟骨が自然治癒しないパーツである以上、外科的な処置となります。

「マッサージ治療院や整体院で変形性膝関節症が治る」がいかに馬鹿げた話であるかがよくおわかりになるかと思います。

整体やマッサージなどで痛みが軽減されることはある

ではなぜ一部の整体院やマッサージ治療院では「変形性膝関節症が治る」と豪語するのでしょうか?


それは、整体・マッサージ・鍼灸で変形性膝関節症の痛みが軽減されることはあるためです。「痛い!」と訴える患者さんに施術をし、「ほら楽になったでしょう?」ということです。

特に、初期の変形性膝関節症については劇的に痛みがなくなることがあります。

治っていないのに治ったかのように錯覚させてしまう

痛くなくなると、患者さんはそれはもう喜びます。

当然ですね。痛いものが痛くなくなったわけですから。

やれ神の手だゴッドハンドだと施術者を賞賛し、施術者もご満悦。めでたしめでたし……


……?


いや、そうではありませんよね?

悪徳商法と言われてもおかしくない「変形性膝関節症が治ります」

ここまで読まれたかたはお気づきかと思いますが、削れた軟骨は戻っていません。

つまり治したわけではなく、痛みが取り除かれただけ、それで整体師やマッサージ師、鍼灸師などの手技療法家は「治った」「改善した」と言っているいうのが真実です。


そしてそれは何を意味するか。

痛みが和らいだ患者さんは、喜んで今までの生活に戻るでしょう。

「今までの生活」。

そうですね。膝を痛める要素があった今までの生活に戻るということです。

またゴリゴリと軟骨がすり減り、さらに変形性膝関節症は進行していくことになります。これは非常にまずいです。


「軟骨は復元されていない」「治ったわけではない」「改善したわけではない」と、施術者はきちんと患者さんに伝えなければなりません。

そしてこれ以上変形性膝関節症が進まないように生活指導をしなければなりません。


「はい治りました」と言ってゴッドハンドを演出する整体院や治療院は、悪質と言われても仕方ないと思います。


変形性膝関節症の治療なら整形外科

膝のレントゲンを撮り、患者さんに対し診断行為をおこない、ヒアルロン注射をおこなったり処方箋を出したりは、東洋医学系の治療院では不可能です。

変形性膝関節症の患者さんは、必ず整形外科に通い、医師の指導を受けながら変形性膝関節症と付き合っていく必要があります


そのうえで、並行して東洋医学系の治療を試すのは大いにアリでしょう。あくまでもメインは整形外科であり、東洋医学系の治療は補助なのです。


そして補助として東洋医学系の治療を受ける場合でも、

「変形性膝関節症を治します。整形外科ではなくうちに任せなさい」

というマッサージ治療院や整体院には行くべきではないと思います。


逆に、整形外科に行かずに来院した患者さんに対し、

「うちだけでは手に負えない疾患ですので、整形外科にも通ってください」

と言ってくれる店こそが、本当の意味での『良い治療院・整体院』なのだと思います。

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